1.どうして上越地方に雪が降るのか

 上越地方に雪が降るのはなぜでしょうか。大雪が降るメカニズムは、当地方に住む小学生の高学年以上なら誰でも知っているでしょう。その知識の程度は「冬、シベリアや中国東北部の冷たい空気(気流)が日本海の暖かい海水(対馬暖流)を多く含み、それから脊梁山脈にぶつかり上昇流となり雪雲を作り雪を降らす」だと思われます。

 それなら、なぜ上越地方がもっと寒い北海道や東北地方の日本海側より雪が多く降るかとなると、中学生なら「海岸より近い距離に妙高山や火打山のような高山が控えているため、地形的な影響が大きい」と答えるでしょう。確かに、その通りです。しかし、当地方に住むものにとって、もっと詳しく科学的に雪の降るメカニズムを知っておきたいものです。ここにいくつかの研究者の発表を紹介します。
 

【季節風の影響】

 
 シベリア大陸の冬の特徴は、熱の輻射が著しく非常な寒さを伴います。このため、発達した高気圧ができます。その反対に太平洋では、海洋の特徴として熱の輻射が緩慢であるために比較的温暖で低圧部ができます。風(空気の流れ)は水の流れと同じく高いところから低いところへ吹きます。その格差が大きいほど水の流れと同様に強く吹きます。普通の冬でもシベリアの高気圧が1040hPa、千島、オホーツク海の低気圧が970hPaといった気圧配置はよく現れます。(いわゆる西高東低の気圧配置)。シベリア高気圧が1070hPa、オホーツク海方面では960hPaと台風並の低気圧となることもあります。

 こうした冬型の気圧配置がもたらす北西の風は、季節風(monsoon・モンスーン)と呼ばれます。大陸で生まれた冷たい空気は風となって暖かい日本海(15℃くらい)を通過し、その際に大量の熱と水蒸気の補給を受けます。水蒸気を大量に含んだ風(空気)が日本列島に上陸すれば、脊梁山脈に当たり上昇します。一方、気圧は山が高ければ高いほど低くなります。吹き上げられた空気は膨張し、膨張した空気は温度が下がります。そして、この辺りの気温は普通0℃以下なので、吹き上げられた水蒸気は凝結し、氷晶核の過程を経て雪となって地上に降ってきます。ただし地上の気温が高いと雨になります。(一般的に地上気温が5℃までが雪の限界とされている)。

 北西の季節風が暖かい日本海を通過する時は、空気の下層が暖められ希薄となり、逆に上層は冷たく重い状態となります。このため、気団全体としての安定性が崩れ、陸地に当たると逆転して重い空気は下に(下降気流)、暖かい空気は上に(上昇気流)移動します。この暖かい空気が上昇するにしたがって、膨張冷却して雪を降らせるのです。このように、水蒸気を雪として落とした風は山脈を越えて山の反対側(関東地方)に吹いていきます。この風は山脈を越えて下ると暖かくなるので飽和(水蒸気を含む限度)に比較すると大変少なく、もともと日本海側に雪の形で水蒸気を放出しているので乾燥した風しか吹きません。また、雲もできず晴天となります。冬期の日本海側と太平洋側の天気の相違はこうして生まれます。

 

【日本海の暖流の存在】

 
 しかし、上記のことは日本海側に雪を降らせることはわかっても、なぜ当地方が多いのかの証明にはなりません。当地方が全国一の積雪地帯であること、当地方が当地方より北の東北地方の日本海側、また北海道の日本海側より多いのは次のような理由があります。

 水蒸気を含みうる空気は気温に関係します。すなわち、気温が高ければより多くの水分を含むことができます。日本海側の北の方は当地より気温が低い上に水蒸気量が少なく、また日本海の水温も暖流に影響されます。しかも、この暖流は冬期間は宗谷海峡から南下する寒流に圧迫されて勢力を失っています。これが、南にあたる当地方を含む北陸地方に大雪をもたらす理由ともなります。

 

【大陸の距離と雪の関係】

 
 次にシベリア大陸より日本列島までの距離についてですが、下図のように、直線にして北陸地方は最も長いのです。長ければそれだけ日本海から熱と水蒸気の補給を受ける割合が大きい、すなわち不安定度が増すことになります。北陸地方は、季節風に湿気を与える日本海の最も幅の広い部分に面するため、世界屈指の多雪地帯となっています。「三国山脈を削り取って日本海を埋め立てたら・・・」といった奇想天外な発想が語られるのも、こうした背景があるからです。

 

【熱源としての海水の役割】

 
 季節風による降雨は気温が海の表面の水温より低くなると降り始め、高くなると止む、すなわち気温より水温が高いと海水を熱源として大気の下層ではバランスが不安定になって降水があり、気温が水温より高いと海水が冷熱源となり下層の大気のバランスを安定させ降水は起きないのです。降水をもたらす気流は、シベリアの高気圧から吹き出してくるものであるといわれています。

 

【気団の衝突による降雪】

 
 なお、シベリア大陸から吹き出す寒冷な空気が日本海の温暖な気層の下にくさび状に突入し、温暖な空気が寒冷な空気の上を滑って昇騰冷却し降雪するという説もあります。

 上記は、昔から気象学者・専門家により論文とし発表されているものです。いずれにしても、大陸の高気圧とオホーツク方面の低気圧による冬型の気圧配置によるものが、降雪現象の圧倒的な原因だと考えられます。

 近年において、38豪雪(昭和38年、北陸地方の福井・金沢・富山に大雪をもたらした)を機会に、北陸地方では海・陸・空の5ヵ年にわたる豪雪の解明のための観測が実施されました。北陸豪雪と言われるものはいわゆる「里雪型」と言われるもので西高東低の気圧配置にあっても等圧線が南北に走る「山雪型」ではなく、日本海に袋状になって等圧線が東西に走ります。ここに「北陸不連続線」と呼ばれる前線が停滞するため、風は山側に流れず寒気により沿岸地方に雪を降らせます。高田の大雪は、昔から里雪型と言われています。事実、昭和2年、昭和20年の大雪は関山以南ではそれほど降らず、海岸地方より新井方面が多く降っています。通常は平野部より山沿に多い降雪も、こと大雪の状態になるときは里雪傾向の場合が多分にあります。

 38豪雪や56豪雪のような北陸沿岸の大雪は、上越地方では平年以下または平年より少し多い程度です。これは前線の位置、動向によるものと考えられ、高田・新井方面は山・里雪混合型とも言えます。完全な冬型の気圧配置では直江津をはじめ海岸地方は少なく、山に向かい次第に降雪が深くなりますが、近年一時的に大雪となる傾向は上越市南部より二本木方面に集中しています。